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ASAS アザス
ASAS
- 2007.10.3
- 定価 2,667 (+税)
- 発売:オ-マガトキ
- 販売:新星堂/コロムビアミュージックエンタテインメント
- Amazon 購入サイト
ジョアン・リラ、クリストーヴァン・バストスと作り上げた
リオ録音最新作。親密さ溢れる、洗練されたカンソン集。
■トリオ編成によりヴォーカリストとしての才能が全開した、リオ録音の最新作。
■日本の歌~ブラジル音楽~ファドを、独自のカンソンとして表現した統一感ある作品
■ジョアン・リラ&クリストーヴァン・バストスの演奏と編曲も素晴らしいクオリティです。
01. Asas アザス(翼) (松田美緒/クリストーヴァン・バストス)
02. 小さな空 (武満 徹)
03. Feitio de Oracao 祈りのかたち (ヴァヂコ/ノエル・ホーザ)
04. Assum Preto アスン・プレト(黒ツグミ) (ルイス・ゴンザーガ/ウンベルト・テイシェイラ)
05. Todo o Sentimento 想いをあつめて (シコ・ブアルキ/クリストーヴァン・バストス)
06. ゴンドラの唄 (吉井 勇/中山晋平)
07. Foi Deus 神様 (アルベルト・ジャネス)
08. みんな夢の中 (浜口庫之助)
09. Nunca 決して (ルピシニオ・ロドリゲス)
10. めぐり逢い (荒木一郎/武満 徹)
11. Trenzinho do Caipira 田舎の列車 (ヴィラ=ロボス/ジョアン・ソウザ・リマ)
前作の『ピタンガ!』に続いてリオ録音、メンバーはノルデスチ出身のマルチ弦楽器奏者ジョアン・リラ(ギター、ヴィオラ・カイピーラ)、クリストーヴァン・バストス(ピアノ)とのトリオによるシンプルな編成。トリオ録音が成功だと確信させる素晴らしいアレンジ、そして小編成なだけに松田美緒の天性ともいえる“声”が等身大でむき出しになった情感たっぷりのアルバムです。 この新作は松田美緒が自身のルーツを意識した内容で、自分の記憶の中にある原風景とでもいえる曲をピックアップ。日本的な叙情性を自身の中に発見した成果がフィードバックされています。デビュー作でも野口雨情「雨降りお月」をポルトガル語で歌っていましたが、今回はその方向性をさらに一歩進めたセレクション。ブラジルのカンソン的なテイストを本人が感じたという武満徹の作品、それと同方向のセンスを感じるというヴィラ・ロボスの小曲を始め、古くてインティメイトな日本の曲(日本語で歌唱)、ブラジル音楽、ファドなどを同一線上に見据えた“松田美緒サウダージ集”とでもいえる彼女にしか表現できないカンソン・アルバムとなりました。そして、静かながら生々しいエモーションを噴出させるヴォーカルと、洗練されたサウンドの組み合わせはかなり説得力があります。 アルバム・タイトルはそんな彼女の記憶と心を歌に託し、その歌が空から翼(Asas)を広げて空気を伝わり、聴く人の感情とつながりたいという願いをこめたもの。天(=空)と地(=ルーツ)を声でつなげたような感動的な作品です。
- ジョアン・リラ&松田美緒プロデュース
- 2007年リオデジャネイロ録音
- 松田美緒(ヴォーカル)クリストーヴァン・バストス (ピアノ)ジョアン・リラ:ギター、ヴィオラ・カイピーラ(M-6)、レキント(M-11)、コーラス(M-4)
- 曲目コメント、歌詞対訳:松田美緒
- 解説:佐藤由美
- コメント:ミウーシャ
毎日新聞 2007年9月13日 東京夕刊
らっこ・アーティスト:松田美緒 ふわり翼もち飛び立つ
当世、セルフ・プロデュースがディーバの証しらしい。とはいえ、自己愛の小宇宙をちんまり描くならともかく、大海原を渡り、歌のルーツをたぐり寄せて再構築、音楽家の賛助をとりつけ、アルバム制作を独力で進めてしまえる才人など、そうそういてたまるか。
05年デビュー作「アトランティカ」来、そのはなれわざをやってのける、松田美緒。時流におもねらず、誰のまねもせず。ポルトガル語圏の歌手や識者らもまっさおの、着眼点、企画・実行力に、小市民の反応は、ひるむかひれ伏すかのいずれかだ。リスボンのファドに学び、出会いが導くまま大西洋上のカボヴェルデ諸島で“モルナ”を伝授され、ブラジルにたどり着いた。その足跡は、大航海時代の冒険者かとみまごうほど。
きたる10月3日、7月リオで録音したフル・アルバム3作目「アザス」を、オーマガトキから発表。英知をつめこみ、綿密な構想に裏打ちされた前2作とは、ひと味ちがう出来。ふわふわの雲の羽根布団にくるまれた、ブロンズの声のよう。浮遊感にあふれ、聞く者へ心の平穏さえさずけてくれる。
最大の収穫は、ギタリストのジョアン・リラとピアニストのクリストーバン・バストス、二人だけの伴奏。饒舌(じょうぜつ)さを嫌う、ブラジルきっての達人に、歌声をゆだねたことだろう。
「いつか少人数で親密な空気のアルバムを作りたい、という気持ちがありました。いつかこの二人と一枚アルバムが作れたら、どんなにいいだろうと思っていたら、思いのほか早く実現したので、まだ信じられないくらいです」
ジョアンの家で、まるで「鼻歌を歌うように、自然に編曲ができていた」と彼女。だから「今回は編曲をゆだねるというより、私が二人に自分をゆだねた、と言ったほうが正しいのです」とも。
この安らぎが、硬質の歌声を伸びやかにした。彼女のポルトガル語詩に、リオのピアニストが旋律をつけたタイトル曲は“翼”の意。アルバムの主題は、地上のどこともつながっている“空”だ。
「今回は、等身大な自分を歌いたいというのがありました。好きな歌を選んで、二人の巨匠と録音して。それが自然にストーリーをつくってくれたように思います」
ボサノバ前夜、歌謡サンバ時代の名ソングに、さりげなく配された日本の歌がいい。武満徹、60年代の2曲や、浜口庫之助「みんな夢の中」。すべて同等にいつくしむ。中山晋平「ゴンドラの唄」は、ブラジル北東部の哀調と、幸せな融合をみた。ファド「神様」にいたっては、運命の嘆きをやめ、ゆるいブラジル人の哲学へと昇華した。まさに翼をもちて飛び立つ、乙女のかろやかさだ。
海洋……いや、空の旅人、松田美緒が、北東部出身のマエストロを招く。ジョアン・リラの参加が決まった国内ツアー、10月いっぱいかけて全国を飛びまわる。(音楽ライター・佐藤由美)